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東京地方裁判所八王子支部 昭和53年(モ)2003号 判決 1982年4月26日

債権者

深堀慶一

右訴訟代理人弁護士

渋田幹雄

原口紘一

(ほか二名)

債務者

ダイワ精工株式会社

右代表者代表取締役

杉本辰夫

右訴訟代理人弁護士

吉沢貞男

主文

一  債権者と債務者間の当庁昭和五三年(ヨ)第二九七号地位保全等仮処分申請事件について、当裁判所が昭和五三年九月二二日になした仮処分決定はこれを取消す。

二  債権者の本件仮処分申請をいずれも却下する。

三  訴訟費用は債権者の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  債権者

主文第一項記載の仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)を認可する。

二  債務者

主文第一ないし第三項と同旨

第二当事者の主張

(申請の理由)

一  当事者

債務者ダイワ精工株式会社(以下、会社という。)は釣用品の製造販売等を業とする株式会社であり、債権者は昭和五〇年二月二一日会社に雇用された従業員である。

二  被保全権利

債権者の昭和五二年一二月から昭和五三年二月までの平均賃金は月額一〇万四九七九円であり、その支払期日は毎月二八日であるところ、会社は昭和五三年二月二八日債権者を解雇したとして以降債権者との雇用契約関係の存在を否認し、右賃金を支払わない。

三  保全の必要性

債権者は賃金以外に収入の途を有しない労働者であり、昭和五三年二月二八日以降は全く無収入の状況である。従って本案判決の確定を待っていては債権者に回復し難い損害の生ずることが明白である。

四  そこで債権者は昭和五三年五月一五日東京地方裁判所八王子支部に対し債務者を相手方として地位保全、賃金仮払い等を求める仮処分を申請したところ、同裁判所は昭和五三年九月二二日「一、債権者が債務者の従業員としての地位を有することを仮に定める。二、債務者は債権者に対し昭和五三年三月一日以降本案判決確定に至るまで毎月二八日限り、金一〇万四九七九円を仮に支払え。」なる旨の本件仮処分決定をした。

五  よって、本件仮処分決定は正当であるからその認可を求める。

(申請の理由に対する認否)

一  申請の理由一および二の事実は認める。

二  同三は争う。

三  第四項は認める。

四  第五項は争う。

(抗弁)

一  会社は、昭和五三年二月二八日、債権者が会社の同年二月一日付北越ダイワ株式会社(以下北越ダイワという)への出向命令(以下本件出向命令という)に従わなかったこと等を理由に就業規則第一六条第四号に基き債権者に対し解雇の意思表示(以下本件解雇という)をした。

二1  債権者は、本件出向命令に従う義務はないから、本件出向命令不服従を理由とする本件解雇は無効である旨抗争するが、本件出向命令は後記のとおり会社の業務上の必要性から出されたものであり、債権者は会社の従業員として該命令に従うべき義務を負担しているから、本件解雇は有効である。

2  本件出向命令の正当性

(一) 会社と北越ダイワとの関係

会社は昭和四六年頃から従来の流通機構を抜本的に改革するため全国を九ブロックに分け各地域に一社ずつ販売会社を設立し、会社―販売会社―小売店という販売ルートいわゆる直販体制の確立を推進した。会社と販売会社とは極めて密接な関係にあり、販売会社の経営管理、業務遂行は会社国内営業部長の統轄指導のもとで国内営業部所属の出向社員により行われている。昭和五三年五月末現在販売会社における釣具関係の労働者全員二二五名が会社の社員たる身分を保有しながら会社から販売会社に派遣されている。この派遣のことを便宜「出向」というのであり、販売会社が独自に採用した社員は一人もいない。会社と販売会社との間あるいは販売会社相互間の人事交流は頻繁に行われており、昭和五二年中における出向ないし出向解除は五一名に上る。販売会社の就業規則の内容、賃金、労働時間等の労働条件は会社と同一である。従って、販売会社は形式的には会社と別個の法人格を有していても実質的には会社の事業所に外ならず、会社の従業員全てが販売会社への出向を配転と区別することなく転勤の一つとして認識している。

北越ダイワは会社と前項記載の関係を有する販売会社の一つであり、富山市に本社を置き新潟市に営業所を有し新潟県、石川県、長野県の全域及び山形県と福井県、岐阜県の各一部を営業区域としている。北越ダイワの釣具関係社員は全部で一五名であり、営業課業務係社員はそのうち二名であったが、北越ダイワにおいては昭和五〇年頃から取扱い高が年々五〇〇〇万円以上増加し、それに伴って業務係の営業事務、商品管理及びアフターサービス業務が激増し到底右二名の社員では処理しきれない状況になった。そこで北越ダイワの海堂営業部長は会社の岡田国内営業部長に対し昭和五二年の四月頃に口頭で、更に同年一一月には文書により、修理の経験及び商品知識を有する二六才以下の高卒社員一名の増員を強く要請した。

(二) 債権者に対する北越ダイワへの出向命令

岡田部長は北越ダイワの要請をうけて検討した結果右要請には十分な理由があると判断し昭和五二年一二月頃から具体的な人選にとりかかった。当初は各販売会社のアフターサービス担当社員を対象に検討したが、どこにも人員をさきうる余裕がなく、次に国内営業部アフターサービス係においても人員不足等のため適当な人材がなく、結局国内営業部業務係、同管理係にまで人選の対象を拡大して検討したところ、アフターサービス業務の経験もあり北越ダイワの要請の条件に合致するのは当時管理課管理係に所属していた債権者一名だけであった。そこで岡田部長の申請に基づき会社では社内の禀議手続を経て、昭和五三年一月二〇日債権者を北越ダイワに出向させることを決定し、昭和五三年一月二三日国内営業部大楽管理課長を通じて債権者に事情を説明したうえ内示した。債権者は右内示に対し二、三日考えさせてほしい旨述べ、一月二五日には「婚約者がおりその家庭の面倒を見なくてはならない。東京に永住するつもりで入社したので他に移るつもりはない。」等の個人的な理由により出向の内示に不服の意を表明したが、大楽課長は再度債権者に対し本件出向の事情を説明して説得した。しかしその後も債権者は何ひとつ合理的な理由を挙げずに出向の内示を拒否する一方であったため、会社は予定どおり二月一日付で、債権者に対し北越ダイワに出向すべき旨を発令し(以下、本件出向命令という。)、二月三日までに後任者に対し事務引継を完了して報告するように指示した。

(三) 債権者に対する出向命令の根拠

(1) 配転命令類似の出向命令権

一般に使用者は人事権(労務指揮権)行使の一態様として従業員に対し配置転換を命じることができるものであるが、前記2の(一)に述べた会社と販売会社である北越ダイワとの関係、会社における出向の実情、販売会社における出向社員の労働条件等からすれば、北越ダイワにおける債権者の労務提供は取りも直さず会社に対する雇用契約上の債務の履行にあたり会社から北越ダイワに対する債権者の派遣を「出向」と呼ぶか否かは単に用語上の問題にすぎず、会社の債権者に対する本件出向命令は配転命令と同視すべきであるから、会社の人事権行使の一態様として本来的に会社に本件出向命令権が認められるべきものである。

(2) 労使慣行

仮りに本件出向が配転と同視できず、会社が債権者に対して本来的にかゝる出向命令を発する権限を有しないとしても、前記2の(一)の事実関係のもとでは会社の販売会社への出向命令に従業員が従うべきことは会社における確立した労使慣行というべきであり、会社は右労使慣行に基づき債権者に対し本件出向命令権を有しているものである。

(3) 包括的合意

債権者は昭和五二年二月六日採用面接において会社の人事担当者から会社と販売会社との関係、会社から販売会社に対する出向の実情等の具体的な説明を受けたうえで出向に応じられるか否かを尋ねられたのに対し、今すぐ転勤することは無理だが将来は転勤できる旨答え、会社に対し雇用契約上出向命令に応ずべき包括的な承諾をなしたものである。

3  債権者に対する本件解雇

前記のとおり本件出向命令は会社が債権者に対して有する出向命令権に基き、且つ、業務上の必要性から発令された正当なものであるにもかゝわらず債権者は本件出向命令発令後も会社の再三にわたる説得をかたくなに拒否し続け「出向する気はない」旨繰返すばかりであった。会社は昭和五三年二月一七日には同月三日に指示した赴任期限を一〇日間延長し同月二四日まで猶予するなどして更に債権者に説得を続けたが、債権者は東京に残りたいという身勝手な理由に固執して出向を拒否する態度を一向に変えようとしなかった。そこで会社としてはそれ以上説得を続けても、業務に協力しようとの姿勢を全く見せず会社の説得に耳を貸そうとしない債権者の態度に好転は期待できず、かといってこのまま債権者の身勝手な態度を容認したのでは企業秩序が損われ今後の円滑な人事の運営にも支障を来すので、債権者は会社従業員として不適格でありこれ以上債権者との労働契約を継続することはできないと判断し、就業規則第一六条第四号を適用して昭和五三年二月二八日債権者に対し通常解雇の意思表示をなしたものである。

(抗弁に対する認否)

一  抗弁一の事実のうち会社がその主張の日に債権者に対し解雇の意思表示をしたことは認めるも、その余の事実は否認する。

二  同二1の主張は争う。

同二の2の(一)の事実のうち、会社が全国を九ブロックに分け各地域に一社づつ販売会社を設立していること、販売会社の従業員が全て会社に在籍する出向社員であること、北越ダイワが富山市に本社を置く販売会社であること、北越ダイワが会社と密接な関係を有していることは認めるがその余の事実は否認する。北越ダイワは釣具業界における問屋や商社間との利害を調整する目的で設立された会社であり、資本構成、役員構成は会社と異なり、就業規則も会社とは別個に有しており、経営上も完全な独立採算制をとっていること等からしても形式実質両面からみて会社とは別個独立の株式会社である。

三  同二の2の(二)の事実のうち、昭和五三年一月二三日国内営業部大楽管理課長が債権者に対して北越ダイワへの出向の内示をしたこと、同年二月一日会社が債権者に対し本件出向命令をなしたことは認めるがその余の事実は否認する。

四  同二の2の(三)の(1)の事実は否認する。会社と北越ダイワとでは労務指揮権に違いがあり、また、かりに違いがないとしても、本件出向命令による債権者の勤務地は富山であって従来の勤務地である東京からみれば遠隔地であること、本件出向命令は期間及び解除後の処遇等の重要な条件が明らかにされていないこと、及び右命令は債権者の従来の業務に著しい変更をもたらすものであることからして、本件出向命令は債権者に著しく不利益なものであるから、配転命令と同視することは不当である。

同二の2の(三)の(2)の事実は否認する。会社の出向命令に対し債権者以外の従業員の中にも異議をとどめていた者も存在し、東京三多摩金属労働組合(以下、三金労組という。)も会社に対し再三にわたり出向に関する事前協議制と出向に関する同意約款の締結を申し入れている現状であることなどの事実に照して、会社の出向命令に従業員が従うべき労使慣行は存在しない。

同二の2の(三)の(3)の事実は否認する。債権者の入社時における会社の説明は不十分であり、また債権者は東京で働くことを希望し、かりに転勤するとしても勤務地を東北または名古屋に限定して労働契約を締結したにすぎないから、債権者は会社に対し出向命令に応ずべき包括的合意はしていない。

同二の3の事実のうち、昭和五三年二月二八日会社が債権者に対し解雇の意思表示をなしたことは認めその余の事実は否認する。

(抗弁に対する反論)

一  本件出向命令は次の理由で無効であるから、同命令に対する不服従を理由とする本件解雇も無効である。

1 出向義務の不存在

(一) 債権者は出向につき入社時に包括的に同意したことはなく、まして本件出向につき個別具体的に同意したことはない。また、会社には就業規則および労働協約上、出向に関する規定は存在しないし、確立された労使慣行も認められない。したがっていかなる点から考えても会社は債権者に対し本件出向命令をなしうる権限を有していない。

(二) 仮に債権者に一般的抽象的な出向義務が存在するとしても会社の本件出向命令に関する業務上の必要性と債権者の右命令に対する拒否理由の相当性を比較衡量すると、次のとおり債権者の不利益は極めて大きいから、債権者に本件出向命令に従うべき義務はない。

(1) 会社の業務上の必要性ないし人選の妥当性

会社が昭和五二年二月に債権者をアフターサービスの仕事から少年釣りクラブ会員の住所、氏名等を転記する単純作業に配転したこと、北越ダイワの営業課業務係社員は本件解雇後少なくとも一年間は当初予定の増員補充がなされていないこと、北越ダイワにおいて債権者が担当する予定であった仕事は小売店との応対、商品の受発注、入出荷業務等の営業関係の内勤業務であり債権者が会社で担当していた業務内容とは異なるうえ、新入社員でも一、二か月の養成期間を置けば十分に職務を遂行しうる仕事であったこと、以上の事実からすれば本件出向命令の業務上の必要性ないし人選の妥当性には多大な疑問がある。

(2) 本件出向による債権者の不利益

会社と債権者は労働契約を対等な立場で締結している以上、債権者の個人的な理由が本件出向にあたり考慮されるべきであることは当然である。ところで債権者には本件出向命令当時保母をしている婚約者がおり、その家庭が母一人子一人であったため結婚後は共稼ぎをすることと母の面倒を見ることがどうしても必要であったが、本件出向により債権者が富山市で勤務することになると、婚約者が保母として富山市で再就職することは著しく困難になり、ひいては結婚自体できなくなるおそれがあった。また、本件出向により債権者は会社における組合活動を通じて得た貴重な友人関係を失うこととなり、債権者の組合活動や労音等の音楽サークル活動も不可能となり、私生活が根底から覆えされることになるし、仕事の面においても本来アフターサービス要員である債権者にとり営業事務を受け持つことになるので著しい職種の変更となり、重大な不利益を受ける。

2 本件出向命令における手続上の信義則違反

出向は労働者に多大の犠牲を強いるものであるから、手続上、使用者が適正かつ誠実に行うべきであることは信義則上当然であるが、会社は従来から従業員の意向を全く無視して出向を命じ、分会からの出向に関する事前協議制の確立の要請にも一切耳を傾けず、出向については団体交渉の議題として認めないなど基本的に不誠実な態度をとり続けている。また、本件出向についてみても、会社は債権者の生活状況や希望等につき内示前に調査をすることもなく一方的に内示を行い、内示後は「夜間大学に通っていようと、何をしていようと一切考慮しない。赴任するか退職するかのいずれかだ。」との強硬な姿勢を貫くのみで、債権者に対し北越ダイワにおける仕事内容、本件出向の業務上の必要性、債権者を選定した理由等につき説明らしい説明は一切なされなかった。さらに会社は分会との話しあいにおいても誠実さを欠き、本件出向命令後本件解雇に至るまで団体交渉において本件出向問題を議題にとりあげようとしなかった。

以上のとおり本件出向命令には手続上の信義則違反があるから無効である。

3 本件出向命令は不当労働行為であるから無効である。

(一) 債権者は昭和五〇年二月二一日入社後直ちに三金労組ダイワ分会(以下、分会という。)に加入し、同年四月には職場連絡員に、同年六月には分会青年婦人部長になり現在に至っている。青年婦人部は分会の団結強化と組織拡大のために活動し、組合活動家を育てる基礎的機関として重要な部門であるが、債権者は分会青年婦人部長としてハゼ釣り大会、新入社員歓迎ハイキング等のリクリエーション活動や「ふれあい」という青年婦人部独自のパンフレットの企画、さらに労音活動等を通じて分会の組織強化に大きな役割をはたしていた。

(二) 分会は東京三多摩地域の金属機械産業及びその関連産業の労働者をその構成員として個人加盟方式によって組織された産業別個人加盟労働組合である三金労組の一組織であり、昭和五〇年二月一八日会社において結成され、当時、分会員総数は四三五名であった。

(三) 会社は分会が結成されて以来一貫してこれを嫌悪し、破壊、潰滅させるため昭和五一年一一月ダイワ労働組合なる第二組合を結成して分会の切り崩しを図り一時金の支払につき不当に差別したり、分会員を人事面において不当に配転するなどあらゆる手段で攻撃をなしてきたため、分会員は本件出向命令時には約四五名にまで減少していた。

(四) 本件出向命令は右のように会社と分会とが対立関係にある最中の昭和五三年二月に分会の青年婦人部長である債権者の組合活動を嫌悪し同人を東京本社から排除し分会員のいない北越ダイワに出向させ少数化した分会を更に弱体化させる目的でなされたものであるから労働組合法第七条第一号、第三号、民法第九〇条に違反して無効である。

(債権者の反論に対する認否)

一 債権者の反論一の1、2の事実は否認する。

二 同一の3の事実のうち、債権者が昭和五〇年二月入社したこと、三金労組の組合員であること、分会が昭和五〇年二月結成されたことは認めその余の事実は否認する。

第三疏明関係(略)

理由

一  申請の理由一、二の事実並びに会社が昭和五三年二月二八日債権者に対し解雇の意思表示(本件解雇)をなしたことは当事者間に争いがない。

二1  (証拠略)を綜合すると、会社は昭和五三年二月二八日、債権者が会社の同年二月一日付北越ダイワへの出向命令に従わなかった等を理由に就業規則第一六条第四号に基き債権者に対し本件解雇の意思表示をしたことが、応認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

2  そこで次に本件出向命令の効力について検討する。

(証拠略)を総合すれば、次の事実を一応認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  会社と販売会社の関係

会社は昭和三三年七月設立され、昭和五二年現在資本金一三億三一〇〇万円、従業員約一二〇〇名、釣用品及びスポーツ・レジャー用品の製造販売を目的とする株式会社で、東京都東久留米市前沢三丁目一四番一六号に本社事務所並びに本社工場、広島市矢野町字見者六六〇番地に広島工場、栃木県那須郡烏山町大桶九七〇番地に栃木工場を有し、札幌市、仙台市、富山市、小平市、静岡市、名古屋市、大阪府吹田市、松山市、福岡市にいわゆる直販会社を擁する東京証券取引所第一部上場会社である。

会社は昭和三七年から会社(営業所)―特約店(問屋)―小売店という販売ルートを採用して釣用品の国内販売を行っていたが、特約店(問屋)が同業他社製品の販売もあわせて行っていたため会社は同業他社と慢性的な過当競争を強いられ商品の値崩れが日常化した。そのため、特約店(問屋)を介さない販売ルートを確立する必要が高まり、会社は自社の製品を専門に取扱う会社直轄の販売会社を設立して、会社―販売会社―小売店という販売ルートいわゆる直販制度を採用することを決め、昭和四七年四月に四国ダイワ株式会社を設立したのを皮切りに、従前の営業所を母体に全国を九ブロックに分け各ブロックに一社ずつ販売会社を設立し、昭和四九年三月静岡ダイワ株式会社の設立を最後に右直販制度を確立した。

(二)  北越ダイワと会社の関係

本件出向先である北越ダイワは前記販売会社の一つであって昭和四八年四月一一日釣用品の販売及び修理等を目的として設立され、昭和五三年一月現在資本金は四五〇〇万円、株式保有率は会社約三二%、丸紅株式会社約一七%、問屋約三三%、小売店約一七%であり、富山市に従前あった会社の富山営業所を本店に改組し、新潟市に営業所を設け、富山、石川、長野、新潟各県の全域と福井、岐阜、山形各県の一部を営業区域としている。役員構成上、代表取締役には会社取締役副社長が就任し、唯一の常勤役員である取締役営業部長は会社国内営業部所属の出向社員からなり、他の非常勤役員のうち会社関係役員が二名おり、その他出資している他社関係役員が五名いる。従業員は全員会社の社員たる身分を保有しながら会社から派遣されている出向社員であり、女子社員以外の現地採用は原則として行われていない。取扱商品は全て会社の製品であり、基本的な経営計画、具体的な販売方針は会社国内営業部において立案され、毎月一回の販売会社主幹者(常勤役員)会議において意見調整された後、会社により決定され指示されるが、経営上は独立採算制がとられている。就業規則は就業時間の点で就業開始終了時刻、休憩時間のとり方が異なる他、会社の就業規則と同一であり、出向社員の給与、賞与は会社の基準にもとづき北越ダイワが支給し、昇給に関する考課査定は会社が北越ダイワの意見を勘案して行うことになっている。

(三)  会社における出向の実態

直販制度が採用された昭和四七年以前は各問屋に対し社員一名の出向が行われていたに過ぎなかったが、昭和四七年以降は問屋への出向は行われなくなるとともに会社から販売会社へ、または販売会社間の出向が頻繁に行われるようになった。会社では昭和五二年二月以降毎年二月と六月に出向、配転等の定期異動が行われており、二月期の異動は営業関係が主体であり、六月期の異動は新しい経営年度に対応し、試用期間を終った新規採用者の配置を主体とする異動である。昭和五二年中における出向発令人員は五一名であり、昭和五三年二月における定期異動者二一名のうち出向発令人員は一六名である。なお、昭和四八年以降昭和五三年二月までの出向発令人員は延約五九六名にのぼり、昭和五三年五月末現在における販売会社への出向社員は二二五名であり、本社国内営業部に勤務する者は四九名に過ぎない。人事異動については会社の事業所間の異動を転勤、会社と販売会社、海外の関連会社間の異動を出向と表示して取扱要領上形式的に区別して規定されてはいるが、転勤と会社・販売会社間の出向とは実質的に同様の手続により起案、合議、承認、決定等がなされる。昭和五三年二月以前において会社から販売会社への出向につき抗議をした者は極く少数であり、その他の者は異議を留めたり抗議をしたことはない。ただし、東京三多摩金属労働組合(以下、三金労組という)のダイワ分会(当時約四〇〇名)が昭和五〇年二月一九日に公然化すると同時に三金労組と三金労組ダイワ分会(以下、単に分会という)は会社に対し、度々出向につき配転等と一括して分会と事前協議をなし本人の同意を得ることを要求した他、出向、配転の問題を議題として団体交渉の申し入れをなしたこともあった。会社と販売会社間の出向契約書には出向期間は原則として三年間とし、必要ある場合には本人の意見を確かめた上更新される旨規定されてはいるが、会社から本人に対して出向期間が明示されることはなく、更新につき本人の意見の確認も行われてはいない。なお、会社の就業規則第九条3には会社が休職を命ずる場合の一として、会社の命により、会社外の業務に従事するときとの規定があるが、従業員の出向義務、出向期間その他会社に復帰する条件、出向先における労働条件、出向対象者、選任方法等についての明文の規定はない。

(四)  債権者の入社の経緯

債権者は秋田県の出身で昭和四六年四月秋田県立大曲工業高等学校機械科卒業後東京都小平市所在のシルバー精工株式会社に入社したが、昭和四九年一〇月頃退職し失業中のところ、同五〇年一月頃会社が新聞の折込み広告でアフターサービス社員を募集していること(該広告には募集の条件として括弧書きで「高卒二五才位迄転勤可能者」と表示されていた)を知りこれに応募した。会社の面接は昭和五〇年二月六日に行われ、担当の小松武雄人事課人事係長は債権者に対し、志願動機、希望職種を確認した後、社員募集の内容について説明し、会社の概要や採用後担当すべきアフターサービス業務の概要の他、会社では販売会社を通して製品を販売するいわゆる直販体制をとっていること、販売会社の社員は全員会社に籍を有したまま派遣されている社員であること、販売会社は全国に九つあり会社と販売会社又は販売会社間の転勤は常時行われていること、会社の社員になれば業務上の必要性などからこれらの販売会社へ転勤を命ぜられることがある旨述べたうえ、債権者が採用された場合に右転勤に応じられるかどうかを尋ねたところ、債権者は今直ちに転勤することは無理だがそうでなければ可能である旨答え、続いて右小松係長が将来転勤する場合に特に希望する地域があれば言ってもらいたい旨述べ、例えば東北はどうか、西日本はどうか、静岡、名古屋あたりはどうかと尋ねたのに対し、債権者は東北、名古屋あたりを希望する旨述べた。次いで小松係長は債権者の転勤につき将来支障を来さないかどうか確認する意図のもとに、債権者の親の面倒は誰がみるのかと尋ねたところ、債権者は姉夫婦がみることになっている旨答えた。そのような面接の結果債権者は入社することになり、アルバイト勤務を経たのち昭和五〇年二月二一日正式に社員として採用された。会社は当時勤務地を限定した採用は人事運営上支障を来すので行っていなかった。

(五)  本件出向命令発令に至る事情

北越ダイワ本社の従業員は昭和五二年当時スポーツ用品課を別にして総務経理関係三名、営業関係四名、業務関係二名の計九名で構成され、営業課営業係は定期的に担当区域の小売店を巡回して商品の受注、納品、代金回収等の営業活動を行っており、営業課業務係は伝票処理、商品管理等のいわゆる内務業務とアフターサービス業務を担当していたが、昭和四八年の設立時以降北越ダイワの販売高が年々増加する一方であったのに比べ人員構成は設立時と全く変らなかったため、業務係の内務業務の増加を担当者のみでは処理しきれなくなったため、営業係やアフターサービス担当者の応援を必要とするようになり、営業活動やアフターサービス業務に支障を来すようになってきた。そこで北越ダイワの海堂取締役営業部長は昭和五二年四月頃から会社国内営業部長岡田英司に対し主幹者会議の折などに再三口頭で業務係一名の増員を要請し、右営業部長から内部努力で切り抜けるよう説得されていたが、内部努力にも限界があり昭和五三年の繁忙期を従来の体制で消化することは困難となったので、昭和五二年一一月二八日付文書により、アフターサービスの経験及び商品知識があり内務業務の補助ができる年令二六才以下の男子一名の増員を正式に要請した。この要請を受けて検討した結果岡田国内営業部長は昭和五三年二月一日の定期異動時に右増員を行うことを決定し、当初は各販売会社のアフターサービス担当者の中から人選を行ったが、どこも必要最小限の人数で余裕がなく、次に国内営業部アフターサービス係七名について検討したが、約半数はアフターサービス実務の経験がなく、残りの半数についても年令上北越ダイワの要請条件に合致せずまた係自体も人員不足の状態であったため、結局国内営業部全体の中から人選を行ったところ、当時国内営業部管理課管理係に所属していた債権者が、アフターサービス実務を経験している他、簡単な内務業務の処理能力もあり、年令的にも北越ダイワの要請に合致していることが判明した。そこで岡田部長は債権者を北越ダイワに出向させることを立案し、他の一六名の定期人事異動を含めて昭和五三年一月二〇日社長以下人事関係者の決裁を受けて右人事異動を内定した。

次いで同月二三日債権者の上司に当る大楽国内営業部管理課長が債権者に対し「二月一日付で北越ダイワへ出向してもらいたい。仕事はアフターサービスを主に、会社への発注や商品管理等の内務業務をしてもらうことになる。二月一日から二週間以内に赴任してほしい。」と出向の内示をした。これに対し債権者は二、三日考えさせてもらいたい旨述べて即答しなかったが、同月二五日に大楽課長に対し、自分には婚約者がおりその家庭が母子家庭であるため面倒をみる必要があること、東京に永住する意思で入社したこと、鼻炎の治療のため専門医に通院中であること、会社の都合で自分の生活を乱されたくないこと、婚約者が公団住宅の抽せんに当ったことを理由に、出向には応じられないから自分以外の者を現地で採用したらどうかと申し述べた。これに対し大楽課長は婚約者の家庭が母子家庭であっても必ずしも面倒をみれないわけではないこと、採用時に債権者が出向を承諾していること等を述べて債権者を説得したが話しあいは物別れに終った。同月二七日の第二回目の話しあいも平行線をたどり、同月三〇日に至ると債権者は自分は組合の青年婦人部長であり組合活動に支障を来すから出向できない旨の理由を新たに付加して出向命令に従うことを拒絶した。大楽課長は以上の債権者との話しあいの経過を逐一岡田部長に報告し、岡田部長は総務部長との間で債権者の挙げた出向拒絶理由を検討した結果正当な拒否理由ではないと判断し、当初の予定どおり同年二月一日に他の一六名の人事異動と併せて債権者に対し本件出向命令の発令をなした。

(六)  本件出向命令の効力について

会社は、債権者に対する本件出向命令は、会社と販売会社である北越ダイワとの関係、会社における出向の事情、同訴外会社における出向社員の労働条件等より見て事実上配転命令と同視すべきである旨主張する。前記(一)ないし(三)の認定事実特に北越ダイワは会社の直販会社の一つであり、会社の株式保有率は三二%に過ぎないが、その代表取締役は会社取締役副社長で、唯一の常勤役員である取締役営業部長は会社国内営業部の出向社員、社員もすべて会社の出向社員であり、就業規則は就業時間の定め方を除いては会社と同一で、出向社員の給与、賞与は会社の基準に基き支給され、昇給に関する考課査定は会社が北越ダイワの前記営業部長の意見を勘案して行い、社員の出向先の変更、出向解除は会社の国内営業部長が立案して会社の総務部長等の裁決を得て決定し、北越ダイワの取扱商品は全て会社の製品であり、その具体的販売方針は会社国内営業部において立案、決定されるなど、人事管理を含むすべての営業活動は会社の国内営業部長の統轄下にあることなどの諸事情を勘案すると、北越ダイワを含む直販会社への出向は事実上の配転と見られないこともないが、出向社員は会社の国内営業部長の統轄下にあるといっても、具体的な業務指揮権は北越ダイワの取締役営業部長に帰属しており、且つ、北越ダイワへの出向は労働条件の重要な要素である勤務場所の変更を伴うのであるから、同訴外会社への異動を指して事実上の配転であり、該出向命令権は使用者の人事権(労務指揮権)に属すると断定するのは相当でない。

次に会社は、直販会社への出向に従業員が従うべきことは会社における確立した労使慣行となっている旨主張し前(一)ないし(三)の事実を綜合すると昭和四八年以降昭和五三年二月までの出向発令人員は延数五九六名にのぼり、発令を受けた社員の殆んどはこれに対し異議を申立ず、出向先の直販会社に赴任し勤務していることが認められるが、確立された労使慣行と言い得るためには、単に使用者の命令に従業員の大部分が従っているという事実のみでなく、労使間で自主的、自覚的に形成された「規範意識」で裏付けされ積み上げられた慣習でなければならないところ、前記(三)記載のとおり、分会は昭和五〇年二月一九日公然化以来度々会社に対し出向、配転につき分会との事前協議並びに本人の同意を得ることを要求し団体交渉の申入れをしていることが認められるから、直販会社への出向につき従業員が従うべきことは、未だ右の意味での「規範意識」で裏付けられた労使慣行とはいいがたいものといわなければならない。

最後に会社は本件出向については債権者の包括的合意がある旨主張する。

前記(四)認定事実によれば、債権者は会社に入社するに際し、「転勤可能者」なる条件のついた折込広告を見て採用面接を受け、採用面接時においても担当者から会社には全国に九つの販売会社がありいわゆる直販制度を採用していることから債権者が入社した場合には全国の右九つの販売会社に転勤することがあること、販売会社に転勤する場合には会社の社員たる地位を保有しながら派遣されることになること、会社と販売会社間の転勤は常時行われていること等具体的な説明を受けたうえ、担当者からの右販売会社に転勤できるか否かという問いに対し直ちには無理だが将来的には可能である旨答えているのであるから、たとえ担当者が出向なる語を用いて説明をしなかったとしても、折込広告に印刷されまた担当者が用いた転勤なる語が実質的には前記在籍出向を意味するものであることを充分了解したうえ雇用契約の申込に対し承諾をなしたものと認めるのが相当である。従って債権者は本件出向につき予め包括的同意をしたものと言うことができる。なお、債権者は転勤先を包括的に同意したわけではなく、東北と名古屋に限定して同意したに過ぎない旨主張し、債権者本人尋問において右主張にそう供述をしているが、右は(証拠略)に照して採用できない。

以上のとおり債権者には原則として本件出向命令に従うべき雇用契約上の義務があったと一応認めることができる。

(七)  債権者は、債権者に一般的抽象的な出向義務が存在するとしても、会社の本件出向命令に関する業務上の必要性と債権者の右命令に対する拒否理由の相当性を比較衡量すると、債権者の不利益が極めて大きいから債権者に本件出向命令に従うべき義務はない旨主張する。

(証拠略)によれば、会社は昭和五二年二月に債権者をアフターサービスの仕事を行う国内営業部管理課アフターサービス係から少年釣りクラブ会員の住所、氏名等を転記する作業を行う同課管理係に配転したこと、本件出向により人員補充が予定されていた北越ダイワの営業課業務係には債権者が解雇された後一年間は補充がされなかったことが一応認められるが、一方、前記(五)認定のとおり会社に対し北越ダイワから前記人員補充の要請のあったのは債権者が国内営業部管理課管理係に配転された後である昭和五二年四月以降であること、(人証略)によれば、昭和五三年度は北越ダイワに対する業務の応援及び北越ダイワより会社に対する修理の依頼という応急処置により北越ダイワの営業課業務係の人員未補充を切り抜け昭和五四年二月の定期異動によりアフターサービス係一名を同訴外会社に出向させ、前記未補充を是正したことが認められるから、債権者解雇後一年間北越ダイワの営業課業務係の補充をしなかったことをもって直ちに本件出向命令に業務上の必要性がなかったとはいえない。

そして前記(四)認定事実を綜合すると、会社が北越ダイワの営業課業務係として債権者を人選したことは客観的に見て合理性があるものといわなければならない。

債権者はこれに対し、本件出向により保母である婚約者と結婚できなくなるとか、友人関係を失うことになるとか、組合活動や労音等の音楽サークル活動が不可能になるとか、鼻炎の治療ができなくなるとかの、個人生活の不利益、不自由を訴えるが、労働者が使用者と労働契約を締結することによってその個人生活に諸種の影響を受けることは当然予測すべきであり、特に会社は前記(一)ないし(三)認定のとおり全国九ヶ所に直販会社を有し、債権者は同訴外会社への異動があることを承知の上入社したのであるから、本件出向命令により東京を離れることによる不利益、不自由は当然予測すべきである。

従って該出向命令が合理性を備えている場合には、それが右予測を超え債権者の生活関係を根底から覆えす等の特段の事情がない限り、これを拒むことは許されないものと考えるところ、債権者が主張する前記本件出向拒否理由はいずれも右の特段の事由に当るとはいえないので、債権者は本件出向命令に服すべき義務がある。

次に債権者は本件出向命令がその手続上信義則に違反している旨主張する。

しかしながら前記(五)認定のとおり会社側は本件出向命令を発するに際し債権者に対し北越ダイワにおける仕事の内容を具体的に告げ、且つ、債権者が理由にならない理由で本件出向命令を拒否しているのに対し、再三にわたり債権者を説得し、合理的な拒絶理由であれば耳を傾ける態度を示し、赴任の日を二月一四日から同月二七日まで二回にわたって延期し、債権者の翻意をうながしたことが認められるので、本件出向命令がその手続上信義則に違反しているとはいえない。

なお債権者は本件出向の業務上の必要性及び債権者を選定した理由につき説明しなかったとか、本件出向に関する分会の団交申入れに会社が応じなかったことをもって信義則に違反している旨主張するが、前者は人事上の機密事項であるからその説明を拒んだとしても不当とはいえないし、又個別的合意に基く出向命令につき労働組合が団体交渉で撤回を求めるのは相当でないから、これにつき応答しなかったとしても会社が不誠実であるとはいえない。

最後に債権者は本件出向命令は不当労働行為であるから無効である旨主張するので検討する。

(証拠略)によれば、昭和五〇年二月一八日分会の結成大会が開かれ翌日その結成が会社に知られたこと、債権者は昭和五〇年二月二一日に会社の正社員となったが、それ以前の同月一八日に分会に加入していたこと、債権者は同年四月頃分会の職場連絡員に、更に同年六月には青年婦人部長に就任したこと、青年婦人部は会社に働く青年婦人労働者の要求の実現とレクリエーション活動などを通して分会の団結の強化と組織の拡大を目的とする分会の専門部であること、債権者は青年婦人部長として毎週定期的に部会を開いて学習活動を行ったり、分会を代表して毎週一回三金労組のレクリエーション活動に参加し、分会独自のレクリエーション活動として昭和五〇年秋口はハゼ釣り大会を翌年五月頃には新入社員歓迎ハイキングを企画したこと、分会員は結成当時は四〇〇名ほどいたが昭和五一年二月ダイワ労働組合が結成されてからは減少の一途をたどり昭和五三年一月頃には約五〇名になっていたこと、昭和五二年度賞与における「生産協力報償」の支給をめぐり会社と分会との間に対立がおこり、昭和五四年三月二〇日東京地方労働委員会において右支給に関するダイワ労働組合員との差別が分会員に対する差別的取扱いであるとして不当労働行為に基く救済命令が発されたことが一応認められ、右認定を左右するに足りる疏明はない。

以上認定事実によると会社と債権者が所属する分会との間に労働紛争があり、会社が分会員を心よ(ママ)く思っていなかったことは想像に難くないが前記認定のとおり本件出向命令は会社の出向命令権に基き、且つ業務上の必要性から出された正当な業務命令であり、債権者が分会員であることないし、その組合活動を嫌悪したがために発せられたと認めるに足る疏明はないから、該命令が不当労働行為であるとする債権者の主張は失当である。

三  本件解雇の効力について

1  本件解雇に至る経緯

(証拠略)を綜合すると次の事実が認められる。

本件出向命令後、債権者は昭和五二年二月三日に上司大楽課長から指示された事務引継はしたものゝ、北越ダイワに赴任しようとはせず、大楽課長や岡田部長の再三にわたる説得に対しても「何故私でなければいけないのですか。」「本人の意志を無視した命令には従えない。出向期間の確約のない転勤はできない。」等と述べて態度を変えず、赴任期限を過ぎた同年二月一五日には新たに、労音の窓口事務をやっていること、ピアノのレッスン料を前払してあること等の理由を追加して一向に出向に応ずる気配を示さなかった。同月一七日には当初の赴任期限を一〇日間延長して、同月二四日までに赴任すべきように岡田部長が大楽課長を通じて債権者に指示したが、右期限を過ぎても債権者は赴任しようとせず、その後の会社側の説得によっても翻意する可能性がみられなかったため、同月二八日債権者に対し本件出向命令に応じる意思がないことを最終的に確認したうえで、会社はこのまゝでは人事に関する規律が保てず、債権者は業務に対する協力姿勢を欠き会社の従業員としては不適格であると判断し、就業規則第一六条第四号を適用して本件解雇を通告した。なお、会社の就業規則には第一六条に、1精神又は身体の障害により就業不適当と認められた場合、2天災地変その他やむを得ない理由により事業の経営不可能の場合、3勤務成績又は能率が不良で就業に適しないと認められた場合、4その他前各号に準ずるやむを得ない事由がある場合、には解雇する旨の規定がある。

以上認定を左右するに足る疏明はない。

ところで債権者が会社の出向命令に正当な事由がないのに従わないことは会社の企業秩序を乱す重大な業務命令違反行為となるから、前記就業規則第一六条第四号のその他前各号に準ずるやむをえない事由に当るとしてなした会社の本件解雇の意思表示は有効である。

従って、債権者は昭和五三年二月二九日以降会社の従業員たる地位を失ったものであるから、債権者の本件地位保全等仮処分申請は被保全権利を欠き失当なものといわなければならない。

よって右申請を認容した本件仮処分決定は結局取り消しを免れない。

そこで、本件仮処分決定を取り消し、本件仮処分申請をいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行宣言につき同法第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 麻上正信 裁判官 元吉麗子 裁判官清水研一は、転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 麻上正信)

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